労働安全衛生法と安全配慮義務・労災認定と民事訴訟の試験対策!メンタルヘルスケアマネジメント検定2種 ラインケアコース
メンタルヘルスケア・マネジメント検定Ⅱ種の試験概要
メンタルヘルスケア・マネジメント検定は大阪商工会議所がメンタルヘルスケア対策を推進するために開催している資格試験です。Ⅱ種(ラインケアコース)は管理監督者(管理職)向けのメンタルヘルス対策の推進で、管理職になるときに勤務先から勧められることが多い資格です。
主に4つの選択肢がある選択問題60問のうち、70%正解すると合格です。つまり42問正解すればよいです。
公式テキストにものすごく沿って出題されるのが特徴で、過去問題集の解説を読んでも「公式テキストXXページに~と記載されています」という解説になってるのかなってないのかわからない解説も載ってます。メンタルヘルスケアの学習より、試験対策をしたほうが効果的です。
意味を理解したほうが覚えやすい項目と、丸暗記しなければならない項目があります。それぞれ【意味】と【暗記】と見出しに書きます。
出題傾向
出題傾向は偏っていて、重点対策しなければならない章があります。 次の4節は各4~6問出題され、ここを完璧に抑えるだけで約20問取れます。一夜漬けするなら絶対ここです。
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(1) メンタルヘルスケアの意義と管理監督者の役割
- (2) 法制面での意義
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(4) 個々の労働者への配慮
- (1) 部下のストレスへの気づき
- (2) ストレスへの対処、軽減の方法
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(5) 労働者からの相談への対応(話の聴き方、情報提供および助言の方法等)
- (4) 不調が疑われた場合の対応
(1) メンタルヘルスケアの意義と管理監督者の役割 (2) 法制面での意義
公法・私法 【意味】
市役所や労働基準監督署等の役所的な組織と、企業や各個人との関係を決めている法律を公法と呼びます。
役所が「あれもこれも禁止!こうしなさい!」と言ってくるものが公法的規制です。「こういうことをしたらパワーハラスメントとなり禁止」、「ストレスチェックを実施し報告しなさい」といったタイプの規制です。刑事罰があることが多いです。
会社と従業員、個人と個人など、役所が絡まない関係を決めている法律を私法と呼びます。「労働契約を結んだらこういう指揮監督できる」「ケガをさせたら治療費と慰謝料を支払え」といったタイプのものです。
「メンタルやられるほど働かせたら損害賠償があるぞ!だからダメ!」といった形で規制をかけている場合、私法的規制と呼んでいるようです。私法では刑事罰はなく、慰謝料など金銭的な解決中心です。
労働安全衛生法 【暗記】
労働安全衛生法は公法的規制と理解されています。違反した場合、刑事罰があります。逆に言うと、私法的、民事的な損害賠償等は規定されていません。
「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」を目的としています。
具体的内容はほとんど政令・省令に委ねられています。
代表的な義務は次の通りです。
- 衛生教育の実施
- 年配者への配慮
- 作業環境測定
- 作業の管理
- 健康診断実施
- 長時間労働者に対する面接指導等の実施
- ストレスチェック
- 病者の就業禁止
民法における不法行為責任と契約責任 【意味】
民法で損害賠償を払ったりしなければならなくなることを責任と呼び、責任が発生するパターンは2つあります。実際に危害を加える不法行為と、やると約束した事をやらなかったことで発生した損害に対する契約責任です。不法行為によって発生した責任が不法行為責任、契約によって発生した責任が契約責任です。
不法行為責任があるのは、危害を加えた人を雇っている企業にもあります。パワハラで健康被害が出た場合、パワハラをした人と、パワハラをした人を雇っている企業両方が、健康被害が出た人に損害賠償する可能性があります。
契約責任も損害が発生したら発生するものです。後述する安全配慮義務も、違反して危険な環境にしただけでは損害賠償責任が発生するわけではなく、病気になったり怪我したり実際に損害が発生してから責任が発生します。
労働契約法と安全配慮義務 【意味】
従業員を雇うとき、企業と従業員の間で労働契約を結びます。従業員は労働し、企業は給料を支払う義務がありますが、ほかにもいろんな義務があります。どんな義務があるか定めている法律が労働契約法です。2008年施行とちょっと新しめの法律です。
労働契約法では「企業は労働者が安全に労働できるよう、必要な配慮をする」と定められています。これを安全配慮義務と呼びます。安全に労働できるよう配慮する契約をしているので、契約責任があります。安全ではない環境になってしまって、それが原因で損害が発生してから損害賠償責任が発生します。
企業は法律や省令や業種による事情などいろんなものを勘案して安全に配慮しなければならないし、働く環境のせいで病気になったり怪我したら損害賠償を支払わなければならないです。
安全配慮義務【暗記】
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者(従業員)の新進の健康を損なうことがないよう注意すること
災害補償【暗記】
労災が発生した場合、災害補償責任が労働基準法で義務付けられています。
- 療養補償
- 休業補償
- 障害補償
- 遺族補償
- 葬祭料
これらは労災保険法に基づいて、ほとんどが労災保険から給付されます。休業補償の最初の3日間などは労災保険の給付の対象外のため、ごく一部のみ企業が直接給付することになります。
労災保険の給付【意味】
労災が発生し、労働基準監督署長が労災だと認定すると、労災保険が給付されます。
業務起因性が認められると、労災だと認定されます。例えばうつ病になったとしても、仕事以外の原因でうつ病になる場合もあります。仕事以外の場合は業務起因性が認められず、労災認定されません。また、労災認定されるかどうかは、企業側に落ち度(過失)があるかどうかに関わりません。
仕事中に発生したことが原因でないと、業務起因性は認められません。この仕事中か否かを業務遂行性がある、ないと言います。業務起因性が認められる場合は業務遂行性は必ず認められており(仕事が原因で災害が発生した=仕事中だった)、業務遂行性が認められない場合は業務起因性が認められません(仕事中ではないときに起きたことが原因で災害が発生した=仕事が原因ではない)。
ケガの場合は業務遂行性・業務起因性は比較的明確にわかりますが、メンタルヘルスの場合は「今このタイミングで病気になった」ということがはっきりしているわけではありません。必ずしも明確ではありません。労働基準監督署長は「これは労災」「これは業務上外」という判断基準がないと大変です。そこで厚生労働省が医学的知見をもとに労災認定するかどうかの基準を定め、労働局長→労働基準監督署長へ周知しています。これを認定基準と呼びます。
心理的負荷による精神障害の認定基準【暗記】
心理的負荷による精神障害の認定基準は2023年に改正されています。第5版テキストから改正されているので気を付けてください。
この項は心理的負荷による精神障害の認定基準を直接読んで暗記したほうが良いかもしれません。
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認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- うつ病・急性ストレス障害など
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認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 後述の別表1で強となるか
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業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
- 前述の業務遂行性
別表1の「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」とします。下記の「特別な出来事」は要暗記です。
特別な出来事 心理的負荷が極度のもの
- 生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
- 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)
- 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
- その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの
特別な出来事 極度の長時間労働
- 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低い 場合を除く)
特別な出来事以外 仕事の量・質 1か月に80時間以上の時間外労働を行った 強になる具体例
特別な出来事以外でも、仕事の量・質に関する問題は出題されやすいです。
- 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
- 発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
特別な出来事以外 強と判断する具体例
他の具体例は勘で答えてしまって大丈夫だと思います。「重度の怪我をした」「多大な労力を費やした」「重いペナルティを課された」など、明らかに強な言い方しています。
労災と民事訴訟【意味】
労災の給付では、平均的な賃金を基礎に算定された定率的な給付に留まります。どういうことかというと、「もし災害なく働けていたら、これくらい貰えたはずなので、その分を給付します」という感じです。
労災が発生した場合、企業が労災の被害を受けた従業員に支払わなければならない損害賠償は、ほかにも様々なものがあります。代表的なものは慰謝料や逸失利益ですが、これらは労災保険では給付されません。労災認定され、労災給付があったとしても民事訴訟でこれらの損害賠償請求することになります。
この損害賠償請求では、労災保険の給付金額は損益相殺の対象とされます。
企業が実際に支払う金額 = 従業員がもらう額(企業が損害賠償しなければならない金額) - 労災保険の給付された金額(ただし特別支給金は除く)
言い換えると
従業員がもらう額(企業が損害賠償しなければならない金額) = 労災保険の給付された金額(ただし特別支給金は除く) + 企業が実際に支払う金額
となります。
特別支給金は本当に特別に支給されるもので、「怪我していて大変だけど頑張ってね!」的な意味で上乗せしているらしいです。なので損益相殺してしまうと、特別に支給して応援する意味が薄れてしまうから除くようです。
また損益相殺されるのは、「すでに給付された金額」です。労災により障害が残った場合は障害(補償)等年金がずっと支給されますが、実際には支払われていないので損益相殺することはできません。年金には前払い一時金もあり、前払い一時金の最高限度額までは支払いを猶予され、前払い一時金が実際に給付されたタイミングで損益相殺することができます。
例: 損害賠償額が1000万円、労災保険の給付金額が600万円、特別支給金が100万円、年金の前払い一時金が300万円だった場合
→企業が支払いしなければならない額 = 損害賠償1000万円 - 労災保険の給付金額600万円 = 400万円
→猶予されていて後で支払えばよい額 = 300万円、今すぐ支払しなければならない額 = ↑の400万円 - 左の300万円 = 100万円
→前払い一時金が実際に300万円支払われた場合: 企業はもう支払わなくてよい
→前払い一時金が実際に200万円支払われた場合: 企業は残りの100万円を支払う
パワハラ【暗記】
パワハラは概念自体が明確でなく、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」で「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう」との定義づけが提言されました。
パワーハラスメント対策導入マニュアルが公表されています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
- 優越的な関係を背景とした言動であって、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- 労働者の就業環境が害されるもの
であり、3つの要素を全て満たすものをいいます。
パワーハラスメントに該当すると考えられる例
- 身体的な攻撃
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精神的な攻撃
- 人格を否定するような言動
- 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
- 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
- 人間関係からの切り離し
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過大な要求
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
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過小な要求
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
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個の侵害
- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する